東京新聞/2010年6月6日(日)

ドラマと社会科学が合体した面白い鉄道百科

鉄道紀行や趣味の列車本は数多いが、鉄道誕生の地イギリスから、南半球のニュージーランドまで世界を網羅して鉄道の歴史を語った本は類例がない。鉄道が人々の生活や文化に及ぼした影響、産業・科学技術・軍事・政治との関係からゲージや運営の違いまで、多種多様なテーマで各地の鉄道通が執筆。大地を血管のように走る路線がはらむドラマと社会科学が合体した面白い鉄道百科だ。

交通新聞/2010年5月26日(水)

「世界の鉄道の歩み網羅」

19世紀初頭の誕生から現代の高速鉄道まで、鉄道の技術開発と普及、衰退から再生へという歴史を世界規模でたどった専門書が今月、東京の出版社から発刊された。鉄道史に詳しくそれぞれの著書も多い小池滋、青木栄一、和久田康雄の3氏が責任編集し、国・地域ごとに執筆者を分けた「世界の鉄道史」は、これまで知られなかった中近東やラテンアメリカ、アフリカなどを含め、世界の鉄道の歩みを網羅。鉄道書や歴史書としてはもちろん、日本の鉄道技術の国際展開や新幹線と在来線の双方を走れるフリーゲージトレインといった、現代の鉄道の課題をひも解くヒントが数多く盛り込まれた好著だ。

 これまで国・地域別に出版されてきた鉄道史を世界規模で修正。鉄道の発達を支えてきた英国やフランス、ドイツ、米国などは国別に、その他のアフリカや中近東、東南アジアなどは地域別に歴史を振り返った。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の高津俊司理事、運輸調査局情報センターの小澤茂樹主任研究員をはじめ各分野の専門家が執筆。750頁を超す大著だが、国・地域別に30〜50頁に分かれているため非常に読みやすい。

 日本とともにフリーゲージトレインを研究開発する国として取り上げられたスペインには、軌間可変システムを開発しなければならない理由があった。欧州はほとんどが路線幅1435ミリの標準軌だが、スペインは1647ミリの広軌。理由は隣国フランスからの侵入を防ぐためとされるが、そのため同国は国境をまたぐ列車の直通運転ができず、鉄道の発達から取り残された。

 スイスからスペインに乗り入れる特急列車「タルゴ」は、当初は路線幅が変わる国境で台車交換していたが、2002年の新型車からは動力車も含めわずか1分間で軌間可変できるシステムを採用。技術開発に力を入れるスペインでは時速350キロの超高速列車が構想されるなど、鉄道先進国に仲間入りしつつある。

 鉄道技術の国際展開で1960年代、アフリカ東部・タンザニアの鉄道整備を主導したのが中国だ。当時の中国は文化大革命のまっただ中で、いわゆる第三世界の経済的自立を支援していた。インド洋に面したダルエスサラームから内陸部まで、2000キロ近い路線を6年間足らずの短期間で建設するため、中国本土から2万5000人もの労働力が送りこまれた。経済成長が続く中国は今、ブラジルの高速鉄道整備で日本と受注獲得競争を繰り広げている。

 このほか、オーストラリアやニュージーランドの鉄道史も掲載。自動車交通の普及で半世紀近く衰退してきた鉄道が、高速化や地球環境問題をてこに再び世界規模で存在感を高めつつあることが、全編から伝わる。

「鉄道ジャーナル」2010年8月号

鉄道という文化を通してみた世界の近現代史

 各国の鉄道の成り立ちを国あるいはエリアごとに章立てて解説し、世界規模で修正した大著である。3人の編者のもと、各界の専門家が分担執筆するが、見出しなどの項目をあえて統一せず、執筆者の裁量としたのが本書最大の特徴である。そのため国ごとの特徴がきわだった内容となっており、読者の理解を大いに助ける。具体的に言うと、イギリスは産業革命、ドイツはビスマルクの国家統一とヒトラーの鉄道戦略、フランスは職員の抵抗運動と新幹線との技術競争、中近東は石油利権と巡礼鉄道、アフリカは列強の侵略と金鉱開発など、その国やエリアに対して象徴的なキーワードを踏まえながら、写真や路線図を適度にまじえた的確な解説が展開する。もちろん、世界とうたうからには日本も含まれており、鉄道国有化から公社へ、さらに分割民営化への流れを概観した章が設けられている。

 どこの国でも、鉄道は近現代の国家建設に重要な役割を果たしてきた。そこでは、国家が鉄道というものをどう理解していたのか、あるいは鉄道に何を期待したのかなど、国によってさまざまな事情や思惑があったはずである。例えば軌間の違いを見ても、こうした背景が標準軌なり広軌といった結果に表われた。一方、経済発展に不可欠と位置づけられたり、軍隊の即時大量移動に有効と着目されたり、時代によって鉄道にはさまざまな使命が課せられた。鉄道の歴史をひも解くことは、国家が歩んで来た足跡をたどることであり、成果を世界規模で並べるのは大いに意義がある。鉄道という文化を通してみた世界の近現代史、これこそ、本書が目的としたところといえよう。