コラム「アメリカ史の窓」

第21回 アメリカ人の革命意識

昔のアメリカ人は独立戦争についてどのように感じていたのだろうか。1842年にメレン・チェンバレンという1人の若い歴史家が、91歳になる1人の退役軍人から独立戦争の端緒となったレキシントン=コンコードの戦いについて事情を聞き取って記録している。
 独立戦争が終結して実に半世紀以上も経っているので、チェンバレンにとってアメリカ独立戦争は遠い過去の話だ。「知識」として知っていても、当時の人々の気持ちなどまったく知らない。
「プレストン大尉、コンコードの戦いに赴く決意をもたらしたのは何ですか」
 チェンバレンは老兵に質問した。
「何のためにコンコードに行ったかだって」
 老兵が答える。
「印紙法によって抑圧されていたからですか」
「私は印紙なんて見たことはなかったよ」
「では茶税についてはいかがですか」
 チェンバレンが重ねて問う。
「茶税だって。私は紅茶なんかまったく飲まなかったよ。若い連中が紅茶を全部水中に投げ捨てたがね」
 紅茶を投げ捨てた事件とは、もちろんボストン茶会事件のことである。
「ではおそらく、あなたはハリントンやシドニー、そして、ロックの絶対自由主義を読んだことがありますよね」
 チェンバレンが挙げた人名は、アメリカの独立に影響を与えたとされる思想家である。
「そんな名前は聞いたこともないね。私が読んだ本といえば、聖書に教理問答書、そして、ワッツの賛美歌と聖歌、年鑑くらいのものだね」
 退役軍人は嘯く。当時、書籍は非常に貴重品で高価であり、多くの種類を所有している人は稀であった。たくさんの本を持つ人の家には、多くの人が本を借りるために訪れるので、一種のサロンができるくらいであった。
 驚いたチェンバレンは思わず尋ねる。
「ではいったい何がコンコードの戦いに赴いた原因だったのですか」
「お若いの。我々がイギリス兵に立ち向かって行ったわけはこうだ。わしらはいつも自由だったし、いつでもそうでなくちゃいかん。しかし、イギリスの奴らはわしらを放っておいてくれなかったというわけだ」