コラム「アメリカ史の窓」

第12回 植民地時代にタイムスリップしよう(2)

 前回に続いてウィリアムズバーグの散策。長らくウィリアムズバーグにはヴァージニア植民地唯一の印刷所があった。印刷した紙を綴じれば本になる。当時、本は非常に高価な品物で職人が一冊一冊、手作業で糸で縫って作っていた。コロニアル・ウィリアムズバーグにはそうした作業を見学できる一角がある。
 
 本の種類にもよるが装丁がしっかりした高いものなら熟練工の日給の一月分にもなった。並製のものでも熟練工の日給一日分の値段である。したがって、普通の人は本を持っていても聖書が一冊に他の本が数冊程度であった。大学の蔵書でも数千冊程度、個人で数百冊も持っていれば文化サロンが開けたくらいである。
 しかもジャンルは限られていて宗教、法律、医学、歴史、軍事など実用書が多かった。もちろん小説もあったが、アメリカ独自の作品はほとんどなかった。本はイギリスからの輸入品が大半であった。そうした本は書店で売られていた。書店は北アメリカ植民地全体で50軒程度あった。そのほとんどが大都市に集中していた。ただ書店と言っても本だけではなくいろいろな雑貨も扱っていた。他にも本を売り歩く行商人がいたようだ。
 学校で使用する教科書も高価であり、現代のように一人一冊ということはなかった。共用で使用する。ページの端を紙で覆って、ピンセットみたいなページめくりという器具を使って大切に扱っていた。
 図書館もあるにはあったが、会員制である。会員でお金を出し合って本を購入するという発想だ。そのため入会金や年会費が必要であった。それは普通の人が気軽に出せる額ではなかった。
 どうしても活字が読みたくなれば居酒屋に行く。居酒屋には新聞が置いてあることが多かった。新聞は高価で誰もが気軽に購読できるものではなかった。そこで多くの人びとが居酒屋で新聞を回覧していた。このように当時の人びとは活字文化を楽しんでいた。