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再分配のエスノグラフィ――経済・統治・社会的なもの

[編]浜田明範

[定価]本体2,800円+税

[体裁]A5判・256ページ

[ISBN]978-4-86582-036-2

 2019年4月

※品切れ、返品待ち

なぜいま再分配の人類学なのか?

経済的格差を是正するための方策であると同時に搾取の手段として、あるいは連帯の手立てであると同時に統治の道具として議論されてきた再分配の多様性と重なり合いを、世界各地の実践の調査研究から明らかにする試み。

 

――なぜいま再分配の人類学なのか? 2010年代、経済政策としての富の再分配の重要性を指摘し、最低賃金 の上昇を旗印にした社会運動が国内外で注目され、支持を集めた。いっぽう、人類学における「再分配」は、市場とは異なるものであり、市場に対抗するための手段であるという見方が提示されてきた。人類学における「再分配」と所得再分配政策としての富の再分配は、国民国家を前提としているかどうかや、格差の是正を志向しているかどうかなど大きく異なる点もあるが、共通している部分もある。本書では、人類学で古典的に議論されてきた、より小規模の再分配的な実践だけではなく、所得再分配政策における富の再分配とその影響についても射程に収める。再分配的な実践の多様性を提示するとともに、個々の地域や集団、さらに国家における実践の特徴を抉り出し、人類学において再分配について議論する現代的な意味を明らかにする。

 

第1章では、フィンランドの高齢者福祉における緊急通報システムの利用状況について分析し、高齢者がサービスを利用するかどうかの判断にサービスの提供者や他の利用者についての想像力が含みこまれ、個々の選択に倫理が介在しうる余地があることを指摘する。第2章では沖縄のある離島を舞台に、国を単位とする再分配制度のひとつである介護保険制度の導入が、どのように地域レベルでの人間関係を再編し、どのような集団を立ち上げてきたのかに注目する。第3章は、欧米の議論を参照しながらも、それとは異なる形で再分配と集団の関係や「社会的なもの」と「政治的なもの」の関係が展開されてきたインドの状況を解きほぐす。第4章は、メラネシアにおける儀礼的交換と再分配の関係について議論している。第5章では、ガーナでの共食という再分配的な実践と「世帯」という集団の関係を検討する。第6章では、ミクロネシア・ポーンペイ島を調査し、世帯よりも規模の大きい集団である(首長国内の)村における再分配的な実践について議論する。第7章では、ガーナ南部で小王主催の集金パーティーにおいてどのようなやり方で貨幣が集められているのかを検討することで、そこに立ち現れる様々なタイプの集団の多様性と複雑な関係性を明らかにする。


 日本、インド、アフリカ、ヨーロッパ、ミクロネシア、メラネシアと、世界各地における再分配の諸相を具体的に描くことにより、貨幣経済の原理が世界中を貫徹する中で、それとは別の原理が、どのような形で機能しているか、また機能しうるのかを問い返す。

【書評掲載】

▶10月5日付『図書新聞』に書評が掲載されました(評者・皆川勤氏)。

序論 再分配を通じた集団の生成――手続きと複数性に注目して(浜田明範)
第一部 再分配をめぐる政治
  第1章 誰がボタンを押すのか――フィンランドの緊急通報システムにみる要求/提供のダイナミクス(高橋絵里香)
  第2章  再分配制度としての介護保険法とコミュニティの再編――沖縄・離島社会を事例に(加賀谷真梨)
  第3章 再分配のアナロジー――インドにおける生モラルと国家制度の重なり合い(田口陽子)
第二部 集団の生成
  第4章 メラネシア人類学における再分配の境界――「集団」と「戦争」をめぐって(里見龍樹)
  第5章 執拗なる共食の実践――ガーナ北部の西ダゴンバ地域における穀物の不足と同居家族の経済関係(友松夕香)
  第6章 再分配を通じた村人のつながりと差異化――ミクロネシア・ポーンペイ島における首長制と住民の帰属意識(河野正治)
  第7章 12月のプランカシ――ガーナ南部において集める/集まるということ(浜田明範)

【編著者】

浜田 明範(はまだ・あきのり)
関西大学社会学部准教授。専門は医療人類学、アフリカ地域研究。ガーナ南部のカカオ農村の人々を対象に、医療政策や国際医療支援プロジェクトや経済活動としてのパーティーについて、生権力論や装置論を用いて研究している。
主要業績に『薬剤と健康保険の人類学:ガーナ南部における生物医療をめぐって』(風響社、2015、単著)、「魔法の弾丸から薬剤の配置へ:グローバルヘルスにおける薬剤とガーナ南部における化学的環境について」(『文化人類学』81(4)、2017)、「存在論的転回とエスノグラフィー:具体的なものの喚起力について」(『立命館生存学研究』vol. 1、2018)など。

【執筆者】

髙橋 絵里香(たかはし・えりか)
千葉大学大学院人文科学研究院准教授。専門は文化人類学、医療人類学。フィンランドの高齢者福祉や親族介護について人類学の立場から調査・研究を行っている。主要業績に『老いを歩む人びと-高齢者の日常からみた福祉国家フィンランドの民族誌』(勁草書房、2013、単著)、『ひとりで暮らす、ひとりを支える-フィンランド高齢者ケアのエスノグラフィー』(青土社、2019年刊行予定、単著)など。

加賀谷 真梨(かがや・まり)
新潟大学人文学部准教授。専門は文化人類学、民俗学。南西諸島において、祭祀、ジェンダー、記憶、高齢者福祉等の多角的な視点で共同体について考えている。主要業績に「沖縄研究にみられる「女性の霊的優位」言説の再検討-「ヲナリ神信仰」再考」(『比較家族史研究』24、2010)、「プロセスとしての共同体-沖縄・波照間島の「戦争マラリア」をめぐる語りを事例に」(『東洋文化』93、2012)、「ジェンダー視角の民俗誌ー個と社会の関係を問い直す」(門田岳久・室井康成編『<人>に向きあう民俗学』森話社、2014)がある。

河野 正治(かわの・まさはる)
日本学術振興会特別研究員PD/京都大学大学院人間・環境学研究科。専門は文化人類学、オセアニア地域研究。特に、ミクロネシア連邦・ポーンペイ島を対象に、ポスト植民地期において伝統的権威と身分階層秩序がいかに維持・創出されているのかを研究している。
主要業績に「状況に置かれた伝統的権威――ミクロネシア連邦ポーンペイの首長制にみるフレームの緊張」(『文化人類学』80(2)、2015)、「再分配の倫理性――ミクロネシア連邦ポーンペイ島社会における首長制と祭宴の事例から」(『史境』75、2018)、「称号とともに生きる――変わっていくわたしとポーンペイ島民」(神本秀爾・岡本圭史編『ラウンド・アバウト――フィールドワークという交差点』集広舎、2019)など。

田口 陽子(たぐち・ようこ)
一橋大学大学院社会学研究科講師。専門は文化人類学、南アジア地域研究。インド都市部のミドルクラスの人々を対象に、市民運動や都市空間、世帯運営の動態について、人類学的な人格論や親族論の視点から研究している。
主要業績に『市民社会と政治社会のあいだ:インド、ムンバイのミドルクラス市民をめぐる運動』(水声社、2018、単著)、「ウチとソトの交渉とずれの生成:ボンベイ・フラットと市民の活動からみた公共空間」(『文化人類学』82(2)、2017)、「腐敗、反腐敗、『個人的価値』:インド、ムンバイにおける『二つの自己』をつなぐ市民の運動」(『文化人類学』81(3)、2016)など。

友松 夕香(ともまつ・ゆか)
日本学術振興会特別研究員。京都大学人文科学研究所。専門は農業史、家族史、ジェンダー関係史。ガーナ、また西アフリカのサバンナ地域を対象に農村経済の民族誌的研究、歴史研究をしている。主要業績に、『サバンナのジェンダー――西アフリカ農村経済の民族誌』(明石書店、2019、単著)、Parkia biglobosa-Dominated Cultural Landscape: An Ethnohistory of the Dagomba Political Institution in Farmed Parkland of Northern Ghana. (Journal of Ethnobiology 34(2)、2014)など。

里見 龍樹(さとみ・りゅうじゅ)
早稲田大学人間科学学術院専任講師。専門は文化人類学・メラネシア民族誌。ソロモン諸島マライタ島のサンゴ礁で人工の島々に暮らす「海の民」(アシ)の事例を通し、現代の人類学において「自然」を再概念化する可能性について探究している。主要業績に『「海に住まうこと」の民族誌―ソロモン諸島マライタ島北部における社会的動態と自然環境』(風響社、2017)、「人類学/民族誌の『自然』への転回―メラネシアからの素描」(『現代思想』42(1)、2014)など。

 

国立民族学博物館論集5・6  A4チラシ両面
『近代ヒスパニック世界と文書ネットワーク』
『再分配のエスノグラフィ』
minpaku-s.pdf
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