哲学オデュッセイ―挑発する21世紀のソクラテス

【著】リヒャルト・D・プレヒト

【訳】西上 潔

定価=本体2,400円+税

四六判430ページ

ISBN978-4-903487-51-9

2011年11月発売

✣日本図書館協会選定図書

 

科学なき哲学は不毛であるが、哲学なき科学は盲目である―

縦横無尽に世界各地の哲学のホットスポットを旅してまわり、
果ては宇宙や母胎にまで足を踏み入れ、

脳科学や生殖医学など最先端の科学的知見を視野におさめつつ、

一寸先は闇とも思える現代世界にあって、

正義とはなにか、自分とは誰かを根源から問いかける。

ドイツで100万部を超えるベストセラー、待望の日本語版!

 

 

……未曾有の天災に原発事故―人間が生きるための前提が崩壊しつつある 現代こそ、本来の哲学的思考が切実にもとめられている。

 本書は、哲学の先人たちの哲学理論を平易に解説した入門書ではない。

宇宙論や素粒子論、脳科学に遺伝子学など、日々新たな知見が加わる

先端科学を視野におさめつつ、いま、この時代に生きる私たちが自ら解決しなければならない問題をつぎつぎに提起する。

 わたしたち自らが〈自分〉について、〈世界〉について、〈宇宙〉について、根源的に考えることをうながす、挑発の書。

▶▶三省堂書店ブログ「神保町の匠」(2012.2月15日付)に書評が掲載されました (評者:松澤隆氏)。

▶▶▶『図書新聞』2012年6月2日号に書評が掲載されました(評者:吉川浩満氏)。詳細…

現代科学と哲学の批判的思考力とをみごとに協調させた、新機軸の哲学ガイドブック

木田 元氏 (哲学者)

ドイツ人ジャーナリストの手になる、なんともユニークな哲学入門書である。

たしかにここでも哲学的思索の「長いさすらいの旅オデュッセイ)」がたどりなおされはするのだが、それが既成の思想体系の羅列に終わらないのだ。
 たとえば「私は何を知ることができるか?」という問いを追求する第Ⅰ部では、「人間はあくまで動物だ」と主張しつづけたニーチェの住む19世紀後半のスイスの山中から旅は始まり、人間の祖先が初めて出現したとされる318万年前のエチオピアのハダールに遡り、次いで最初の脳科学者カハールの活躍した19世紀末のマドリッドにもどってくる。

 さらにデカルトが近代的自我を確立したとされる三十年戦争下のドイツの寒村から、そんな不変の自我の存在など否定したエルンスト・マッハの暮らす19世紀末のウィーンへ移り、ついには2267年、カーク船長の操縦する宇宙船USSエンタープライズ号の船中にまでと…果てしなく旅はつづけられ、どこまでも問いが深められる。
 脳科学をはじめとする現代科学の最新の知見と哲学の批判的思考力とをみごとに協調させた、まったく新機軸の哲学ガイドブックだ。

 

第Ⅰ部 私は何を知ることができるか?

◇宇宙のなかの利口な動物―真理とはなにか?/フリードリッヒ・ニーチェ

◇ルーシー・イン・ザ・スカイ―私たちはどこから来たのか?/ドナルド・カール・ヨハンソン

◇精神の宇宙―私の脳はどのように働いているのか?/サンティヤゴ・イ・カハール

◇三十年戦争のある冬の晩―自分自身を私はどこから知るのか?/ルネ・デカルト

◇マッハの体験―「自我」とは何か?/エルンスト・マッハ

◇ミスター・スポックの恋―感情とは何か?/ミスター・スポック

◇主人が不在の自宅―私の潜在意識とは何か?/ジークムント・フロイト

◇そこで何があったのか?―記憶とは何か?/エリック・リチャード・カンデル

◇ガラス壺のなかのハエ―言語とは何か?/ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン

第Ⅱ部 私は何をなすべきか?

◇ルソーの誤り―私は他者を必要とするか?/ジャン=ジャック・ルソー

◇竜退治の剣―なぜ私たちは他人を助けるのか?/フランス・ドゥ・ヴァール

◇私のうちなる法則―なぜ私は善良であるべきなのか?/イマヌエル・カント

◇リベットの実験―私は自分がしたいことを欲することができるか?/アルトゥール・ショーペンハウアー&ベンジャミン・リベット

◇ゲージの場合―脳のなかにモラルはあるか?/ハンナ&アントニオ・ダマシオ

◇君も感じていることを私は感じる―善良であることは報われるか?/ジャコモ・リゾラッティ

◇橋の上の男―モラルは生まれつきのものか?/マーク・ハウザー

◇ベルタおばさんは生きるべきだ―人殺しは許されるか?/ジェレミ・ベンサム

◇尊厳の誕生―堕胎は道徳的か?/ジュディス・ジャーヴィス・トムソン

◇末期―安楽死は認められるべきか?/アルビン・エーザー&ノルベルト・ヘルスター

◇ソーセージとチーズの彼方―人は動物を食べてもよいのか?/ピーター・シンガー

◇文化の森のサル―私たちは類人猿とどのようにつきあうべきか?

◇クジラの苦難―なぜ私たちは自然を保護すべきなのか?

◇あるクローンの意見―人間のコピーは許されるのか?

◇レディーメイドの子どもたち―生殖医学はどこに向かうのか?/フランク・コメール

◇霊界へと通じる橋―脳科学は何をしてよいのか?/ロバート・ホワイト

第Ⅲ部 私は何を望んでよいのか?

◇あらゆるイメージのなかで最も偉大なもの―神は存在するか?/カンタベリーのアンセルムス
◇大執事の時計―自然に意味はあるのか?/ウィリアム・ペイリー
◇いたってノーマルなありそうにないこと―愛とはなにか?/二クラス・ルーマン
◇ドゥー・ビー・ドゥー・ビー・ドゥー―自由とはなにか?/ジャン=ポール・サルトル
◇ロビンソンの廃油―財産は必要か? /ダニエル・デフォー&ゲオルク・ジンメル
◇ロールズのゲーム―正義とはなにか? /ジョン・ロールズ
◇ 至福の島―幸福な人生とはなにか?/ リチャード・ラヤード&ルートヴィヒ・マルクーゼ&マーティン・セリグマン
◇遥かなる庭―幸福は学ぶことができるか?/ エピクロス
◇マトリックス・マシーン―人生に意味はあるのか?/プラトン

 

目次詳細…

 

【著者】

リヒャルト・ダーフィト・プレヒト
(Richard David Precht)
1964年、ドイツのゾーリンゲン生まれ。1994年、ケルン大学で博士学位を取得後、ドイツの新聞・雑誌や放送局の仕事をし、2000年生物医学の分野でジャーナリズム賞を受賞。3冊の小説のほか、2009年に“Liebe:Ein unordetliches Gefuhl”(邦訳『愛って何?―わかりあえない男女の謎を解く』柏書房※2011年11月下旬刊行)を、2010年には“Die Kunst,kein Egoist zu sein”(エゴイストにならない方法)を出版し、いずれもベストセラー入り。2007年に刊行された本書は、ドイツだけですでに100万部を超える大ベストセラーとなっており、いまや市井のスター哲学者である。

【訳者】

西上 潔 (にしがみ きよし)
1955年、東京生まれ。中央大学文学部哲学科卒業後、フライブルク大学にて哲学、ドイツ文学、言語学を専攻、哲学博士学位取得。現在、流通経済大学非常勤講師。著書に『Nietzsches Amor Fati - Der Versuch einer Überwindung des europäischen Nihilismus (ニーチェの運命愛)』、訳書にアンナ・マリア・ジークムント『ナチスの女たち-第三帝国への飛翔』など。