【推薦のことば】

「複雑さを増す現代宗教について、確かな情報をもたらしてくれる事典 」

  島薗 進(東京大学大学院教授、宗教学・近現代宗教研究


 世界の人々の生活は激しく変化している。宗教も変化するのは当然だろう。しかし宗教は不変の真理に従おうとするのだから、ある意味では変化しない。原理主義者は宗教本来の姿に立ち戻るのだというが、そう主張することで、変化を引き起こそうとしているのだ。このように現代世界の宗教の動向を捉えるのは容易でない。一つの方法は、従来とは異なる新しい信仰を自ら掲げる人たちに注目することだろう。「新宗教」「セクト」「新しい(代替的)スピリチュアリティ」など、伝統の主流から外れて、独自の結集点をもとうとする人たちの宗教だ。現代世界の宗教の特徴の一つは、こうした集団やネットワークが著しく増えていることだ。これらについて、確かな情報を得るのは容易でない。何とか適切な案内をしてくれる書物がほしい。本書はまさに、この要望に応えたものだ。本書を通して、周辺から現代世界の宗教を見直す視点を養うことができる。宗教というものの複雑さをよくよく味わうこともできるだろう。

 

 

「多彩な宗教現象・団体を一冊の本で、正確に知ることのできる価値は大きい」

  山内昌之(東京大学大学院教授、歴史学・イスラーム地域研究)

 
 これは画期的な宗教事典である。伝統宗教の新たな展開だけでなく、現代の新宗教やセクトなども広く扱っているからだ。訳者は各分野の専門家であり、訳文も平易で分かりやすい。どの団体や運動も醒めた観点から眺める学問的姿勢が好ましい。たとえば、1978年に集団自殺を遂げたガイアナの人民寺院の自己破壊を、教祖のジョーンズが外部世界と対立し実験的なコミューンが孤立した点に求めるなど、説明は明解で安心できる。日本のオウム真理教の特徴を他の新宗教運動と異なり、ポアなど人の殺害を正当化する暴力性にあるとしながら、後継団体がまだ活動中だと日本社会の個性も淡々と記述する。国や社会に根付かない「ハイパー宗教」にも詳しく、代替スピリチュアリティと総称される擬似宗教現象も広く扱われている。ロシアからインドやチベット、はてはイスラームまで広がる多彩な宗教の現象と団体を一冊の本で正確に知ることのできる価値は大きい。