コラム「アメリカ史の窓」

第18回 ワシントンとフリーメイソン

 フリーメイソンは数ある秘密結社の中でも最も有名な存在だろう。そのためいろいろな風聞がまことしやかに囁かれている。ただ「秘密結社」と呼ばれているものの、まったく正体がわかっていないわけではない。ワシントンもフリーメイソンの一員だったことが知られている。
 フリーメイソンリーは、一七二九年から一七三一年頃にイギリスからアメリカにもたらされた。フリーメイソンは、宗教ではなく秘儀をおこなう哲学体系に近い。それにフリーメイソンに加盟することで上流階級との繋がりができたので出世の糸口としては格好の場であった。ワシントンが青年期にフリーメイソンに加盟したのもそうした動機があったようだ。
 ワシントンにとって、フリーメイソンは社会道徳を促進するための組織であった。それだけではない。フリーメイソンはアメリカ独立革命の思想的基盤の一端を担っている。なぜならそうした基盤を作った人びとの大部分は何らかのフリーメイソンから影響を受けていたからだ。
 ただアメリカ独立革命自体がフリーメイソンの陰謀だという都市伝説は荒唐無稽である。なぜなら独立を支持する者も独立に反対する者もフリーメイソンに加盟していたからだ。それに本来であれば、加盟者はフリーメイソンを政治的に利用してはならない。
 とはいえワシントンは独立戦争の中でフリーメイソンを利用している。フリーメイソンを使って将兵の団結を図ったと言われている。もちろんワシントンはフリーメイソンの他にも宗教の絆も利用しているので、使えるものは何でも使うといった考え方であった。
 どうやらワシントンは晩年になってフリーメイソンにあまり熱心に参加しなくなったようだ。亡くなる一年前に書かれた手紙によれば、十三年で一回か二回程度しか会合に参加していない。なぜ参加しなくなったのか。世評を気に掛けたワシントンは、新たな貴族階級の出現と見なされるような組織への参加はできるだけ避けるようにしていたからだ。もし仮にフリーメイソンの陰謀が何かあったとしてもワシントンは決して加担しなかったはずだ。