コラム「アメリカ史の窓」

第24回 イギリス兵という存在

イギリス兵は志願制による。重罪人が懲役や死刑を免れる手段として軍隊に志願することもあったが、大部分の兵士は農夫や職人、そして、労働者である。

 独立戦争が起こる前、イギリス兵の兵役期間は終身であった。したがって、兵士は当然ことながら豊富な経験を持つ。イギリス兵にとって軍隊こそ故郷であり、自分の家であって、彼らはそれを誇りにしている。しかし、戦争が激しくなって募兵が難しくなると、兵役期間は3年に短縮され、報奨金が増加された。そうでもしなければ兵役に応じる者がいなかったからだ。  イギリス軍は均質な一枚岩ではない。スコットランド高地連隊のような特殊な部隊も存在している。格子縞のキルトを身に纏い、スポラン[正装の場合に腰からキルトの前に下げるアマグマの毛皮袋]を下げ、粋なウール地の縫い目のない縁なし帽を被って、バグパイプの調べとともに行進する高地連隊兵の独特な姿は、その勇猛さとともによく知られている。彼らは、兵士というよりも戦士である。

 高地連隊では、募兵の方法も一般の部隊とはまったく異なり、部族の長の協力で兵士達が集められる。多くの場合、兵士達は、地縁だけではなく血縁で結ばれている。部族の中で評判を落とさないように務めるので、兵士達の規律正しさはイギリス軍随一と言ってもよい程であった。例えば、戦場で負傷した兵士を見捨てることは、親戚を見捨てるのと同じであり、大いなる恥辱とされた。

 ただそうした誇り高い兵士達にも問題はある。兵士達は、生粋のスコットランド人だったので、ゲール語しか話すことができなかった。そうなると上からの命令の伝達に支障が生じる。そこで古参兵を教師とした高地連隊独自の学校が作られ、他の部隊と連絡を取り合うことができるように英語が教えられた。

 高地連隊の兵士の兵役期間は、通常、終身であって、ある1人の兵士は、103歳になるまで実に75年もの兵役期間を務めたという。その兵士の子供達の年齢は、上は83歳、下は9歳だったというから恐れ入る。